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次郎物語第一部1

作者:admin    文章来源:盐田区外国语学校    更新时间:2017-12-29

次郎物語第一部一 お猿さん

「癪(しゃく)にさわるったら、ありゃしない。」と、乳母のお浜が、台所の上り框(がまち)に腰をかけながら言う。
“真是气死我了。”乳母阿浜座在厨房入口的门槛上,气呼呼地说。

「全くさ。いくら気がきついたって、奥さんもあんまりだよ。まるで人情というものをふみつけにしているんだもの。」と、竈(かまど)の前で、あばた面をほてらしながら、お糸婆さんが、能弁にあいづちをうつ。
“就是嘛,夫人她再怎么厉害,也太过分了点。这根本就是在将人家的感情踩在脚底下。”阿系婆婆在灶台前随声附和着,火光将她那满是麻子的脸映的通红。

「お前たち、何を言っているんだよ。」と、その時、台所と茶の間を仕切る障子が、がらりと開いて、お民のかん高い声が、鋭く二人の耳をうつ。
“说什么呢,你们!”就在此时,厨房与客厅之间的障子被唰的一声猛然打开,阿民刺耳的声音在两人的耳边炸响。

 お糸婆さんは、そ知らぬ顔をする。お浜は、どうせやけ糞だ、といったように、まともにお民の顔を見かえす。見返されて、お民はいよいよきっとなる。
阿系婆婆装出一副若无其事的样子。阿浜则是一副豁出去了的样子,正脸看着阿民的脸。阿民被她这么一看,更加生气了。

「お浜、あたしあれほど事をわけて言っているのに、お前まだわからないのかい。恭(きょう)一は何と言っても惣領(そうりょう)なんだからね。どうせあの子を、そういつまでも、お前の家に預けとくわけにはいかないじゃないか。」
“阿浜,我把事情给你讲的那么清楚了,你难道还不明白吗?反正他是家里的老大,不可能就这样一直寄养在你家里。”

「そんなこと、もうわかっていますわ。どうせ御無理ごもっともでしょうからね。」
 “这种事,我已经知道了。反正您说的都在理!”

「お前何ということをお言いだい、私に向かって。……お前それですむと思うの。」
“你怎么能这么对我说话呢。……你以为这样说说就没事了。”

「すむかすまないかわかりませんわ。まるで欺(だま)しうちにあったんですもの。」
“有事没事我哪里知道。只是觉得被人骗了。”

「欺しうちだって。」
“什么?你竟然说被骗了?”

「そうじゃございませんか。恭さんをちょっと連れて来いとおっしゃるから、つれて上ると、すぐにお祖母さんに連れ出さしておいて、そのあとで、こんなお話なんですもの。」
“难道不是吗?您说让我把恭少爷带过来看一下,所以我就把他带过来了,没想到恭少爷马上就被他奶奶带走了,然后您就跟我说起这事。”

「それで、お前すねたというのだね。」
“所以你就是不服气了,是吗?”

「すねたくもなろうじゃありませんか。私にも人情っていうものがございますからね。」
“您让我怎么服气?我也是有感情的一个人呢。”

「すると、恭一の代りに、次郎を預るのは、どうしても嫌だとお言いなのかい。」
“这么说你是无论如何都不愿意放弃恭一而抚养次郎,是吗?”

 お浜はそっぽを向いて默りこむ。
  阿浜转过脸去,不再说话。

「何というわからずやだろうね。私に乳がないばっかりにこうして頼んでいるのに、やさしく言えばつけ上ってさ。……嫌(いや)なら嫌でいいよ、もうお前にはどの子も頼まないから。その代りこの家とはこれっきり縁を切るから、そうお思い。飯米(はんまい)に困るなんてまた泣きついて来たって知らないよ。恭一にだって、これからはどんな事があっても逢わせるこっちゃない。」
“你怎么就这么不懂事呢。我就因为没有奶水才希望你代替我抚养他,可我对你和颜悦色一点你就跟我顶起来了。……不愿意也没关系,哪个孩子我也不再交给你抚养了。取而代之的是,从今之后你就当跟这个家再也没有什么关系了。你家揭不开锅的时候你再哭着来求我,我也不管了。今后就连恭一,也不会让你再见面,不管有什么事都不会让你再见他。”

 お民は、そう言ってぴしゃりと障子(しょうじ)をしめた。
「奥さん、そりゃあんまりです。あんまりです。」
 お浜はしめられた障子のそとでわめき立てた。
「何があんまりだよ。」
「あんまりですわ。やっと恭一さんを一年あまりもお育てしたところを、だしぬけに、今度の赤ちゃんのような、あんな……」
「あんな、何だえ。」と、また障子ががらりと開く。
「…………」
「はっきりお言い。」
「まあまあ、奥さん、わたしからお浜どんにはよう言って聞かせましょうで……」と、お糸婆さんが、やっとなだめにかかる。
「言って聞かせるもないもんだよ。年寄りのくせに、お浜にあいづちばかりうっていてさ。」
「へへへへ。」お糸婆さんは、お歯黒(はぐろ)のはげた歯をむき出して、変な笑いかたをする。
 その時、奥の方から赤ん坊の泣き声がきこえた。お民は障子をしめながら、二人をぐっと睨(ね)めつけて、おいて、その方に立って行く。
「どうせお前さんの思う通りにゃなりっこないよ。あきらめたらどうだね。」と、お糸婆さんはお浜に寄りそって小声で言った。
「やっぱり今度の赤ちゃんを預るのさ。飯米のこともあるしね。」
「あたしゃ、飯米のことなんか、どうだっていい気がするんだよ。」
「そりゃ、お前さんの今の気持はそうだろうともさ。だけど飯米もふいになるし、恭さんにもこれから逢えないとなりゃ……」
「ほんとうに逢わせない気だろうかね。」
「そりゃ、あの奥さんのことだもの。……お前さんも随分勝気だが、奥さんにあっちゃ叶(かな)いっこないよ。こうと決めたら、てこでも動くこっちゃないからね。」
「そのうちには、恭さんもわたしたちを忘れてしまうだろうね。」
「そりゃ、何といってもね……だから、やっぱり今のうちに、お前さんの方で折れた方が何かと工合がいいんだよ。」
「でも、恭さんの代りにあんな猿みたいな子を預るのかと思うと……」
「そんなこと言うのは、およし。聞えたらどうする。」
「だって、本当だろう。お前さん、そうは思わないかい。」
「それほどにも思わないよ。そりゃ恭さんとはくらべものにならないけれど。」
「恭さんは、そりゃ生まれた時から品があったよ。」
「今度の赤ちゃんだって、育てていりゃ、そのうち可愛ゆくなるさ。」
「あんなお猿さんみたいな顔でもかい。」
「およしったら。ほんとに聞えたら知らないよ。」
「聞えたら、聞えたでかまわないさ。」
「でも、それじゃ、何もかも駄目になるじゃないかね、第一、恭さんにも一生逢えなくなるよ。それでもいいのかい。」
「ああ、ああ、癪でも、やっぱり預ることにしようかね。」
「そうおし、飯米のこともあるしね。」
「また飯米のことかい。よしておくれよ。あたしゃ、恭さんが可愛いばっかりに、あんな猿みたいな赤ちゃんでも、預ってみようというんだよ。」
「おやおや、えらいご奮発(ふんぱつ)だね。でも、預る気になってくれて、わたしも奥さんに申訳が立つというわけさ、……どうれ、また気が変らないうちに、奥さんに知らしてあげようか。」
 お糸婆さんは、にたにた笑いながら奥に行った。そして、お民にさんざん噛(か)みつかれながらも、ともかくもうまく話をまとめた。
 そこで次郎はその日から、恭一に代って、お浜の家に里子(さとご)に行くことになったわけなのである。
 だが、お浜が次郎をいつまでもお猿さん扱いにして嫌(きら)っていたかというと、そうではない。三四ヵ月もたつと、彼女の愛情は、もうすっかり恭一から次郎の方へ移ってしまっていたのである。
 お民は、次郎が次男坊なためか、或いはお浜が言ったように、実際猿みたいな顔をしていたためなのか、恭一を預けていた頃にくらべて何かにつけ冷淡だった。お浜にはそれが癪だった。そして、それがかえって彼女の次郎に対する愛着を増す原因のひとつでもあったのである。
 ある日、お浜は次郎の大きくなったのを、お民に見せたいと思って、しばらくぶりでやって来た。するといきなりこんな会話が始まった。
お民――「おかげで、お猿さんも随分大きくなったわね。」
お浜――「まあ、お猿さんですって?」
お民――「そう言っちゃ、いけなかったのかい。」
お浜――「だって、自分の御子様じゃございませんか。」
お民――「でも、お猿さんって言うのは、お前がつけてくれた名だっていうじゃないの。ちゃんと婆さんに聞いて知っているのよ。」
お浜――「あの時は、あの時ですわ。いつまでもそんな……」
お民――「少しは人間らしい顔に見えて来たと、お言いなのかい。」
ぉ浜――「奥さんたち、わたし、くやしいっ。」
お民――「おや、泣いているの、ついからかってみたくなったのだよ。すまなかったわね。」
お浜――「からかうのも、事によりますわ。奥さんがそんな気持でしたら、私にも考えがあります。」
 お浜は、ぷんぷん怒って、次郎を抱いて帰ってしまった。そして、それっきり、お民から何度使いをやっても顔を見せなかったばかりか、月々の飯米さえ受取りに来ようとしなかった。で、とうとうお民の方が根負(こんま)けして、自分でお浜の家に出かけることになった。
 今度は、無論お猿の話なんか、どちらからも出なかった。それどころか、お民はこんなことを言って、お浜の機嫌(きげん)をとったのである。
「この子は八月十五夜の丁度(ちょうど)月の出に生まれたんだよ。だから、きっと今に偉くなると思うわ。」
 お浜は、それですっかり気をよくした。そして、それ以来、「八月十五夜の月の出」が、いつも二人の話の種になった。話の種になっても、それはちっとも不都合ではなかったのである。と言うのは、次郎の生まれた時刻は、実際その通りだったのだから。
 尤(もっと)も、その時刻に生まれたことが、果して次郎にとって幸福であったかどうかは、疑わしい。それはおいおいと話していくうちにわかることである。

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